学長メッセージ

学長メッセージ

学長メッセージ ~伝統を重んじた新たな価値の創出~

獨協大学のルーツ

獨協大学学長 山路 朝彦 獨協大学の起源は、1883(明治16)年に設立された獨逸学協会学校に遡ります。獨逸学協会学校は、1881(明治14)年に品川弥二郎、桂太郎、青木周蔵、加藤弘之、西周ら明治を代表する人物らによって設立された獨逸学協会が母体となり、ドイツの文化や学問体系を導入して合理的、実学的な教育を行い、国内のドイツ人教員に加えて、ドイツより招聘した教員による高度な授業も行われ、政界、官界、医学界、法曹界に優れた人材を多数送り出したことで知られています。また、明治の啓蒙思想家として著名な獨逸学協会学校初代校長の西周は、開学式典にあたり、「学ヲ為スノ道ハ、先ヅ志ヲ立ツルニ在リ」と述べるとともに、「知育、徳育、体育」の総合、すなわち今日の教養教育の大切さを強調されました。

大学は学問を通じての人間形成の場である

 獨協学園内での大学設立の機運の高まりにより大学設置構想が発表され、獨協大学は1964(昭和39)年に学園創立80周年事業の一環として開学されました。建学者は、哲学者、教育者である天野貞祐先生です。天野先生は、獨逸学協会学校中学を卒業し、旧制第一高等学校、京都帝国大学に進学し、カント哲学の研究に没頭されました。カントの『純粋理性批判』を日本で初めて翻訳したことで知られ、第3次吉田茂内閣の文部大臣を務められました。天野先生は、「大学は学問を通じての人間形成の場である」という建学の理念を掲げ、大学教育に関する自らの理念を実現すべく獨協大学初代学長に就任されました。
建学の碑 獨協大学の「学則」第一条は、本学が社会の求める学問を研究、教授することで人間を形成すること、学園の伝統である外国語教育を重視すること、内外の複雑な情勢に対処できる「実践的な独立の人格」を育成することを定めています。獨協大学の使命は、21世紀の社会をリードしうる国際的教養を備えた専門的人材を育成することにあります。すなわち獨協大学は、日本の近代国家建設に参画した獨逸学協会学校の「実学の伝統」と、戦後の民主教育の発展に貢献した天野貞祐先生の「人間尊重の思想」、この二つの流れが融合したところに生まれたわけです。また、天野先生は大学教育における全人的な人間性の開発を提唱していますが、それを実現する手段として、学問の修得と並んで部活動やサークル活動など、学生の正課外の自主的活動も重視しています。すなわち、大学の講義だけでは得難い知識、経験、技術、体力の涵養などの大切さ、重要さを指摘されています。このため、獨協大学では教育機関の一つとして「学友会」を創設しており、「学則」の中に学友会活動が「教育機構の一環」であることを明記し、学生と教職員が一体となってその運営に当たっています。したがって学友会は、本学の個性や学風を形作る大きな柱の一つでもあり、「学生センター」が大学正面に配されているのも、獨協大学の教育方針の表れなのです。

今日までの道程

 現代の社会は、内外における様々な要因により、急激な変化に直面しています。獨協大学はこうした社会構造の変化に対応するため、教育研究機関として自ら改革を進めてきました。
 教育面では、「学則」第一条にある「社会の求める学問」を機軸として、現代ニーズを反映した教育インフラの再編に取り組んできました。既存の学部・学科のカリキュラム改革を行う一方、新たな教育研究ニーズに応えるため、新学部、新学科の設立を行ってきました。開学当初、2学部3学科で出発した獨協大学は、現在、外国語学部、国際教養学部、経済学部、法学部を基盤として、4学部11学科と大学院を擁する文科系総合大学へと大きく発展しています。基礎教育となる「全学共通カリキュラム」で語学力と総合的な思考力を養い、少人数制のゼミナールや学部・学科それぞれの特色あるカリキュラムにより専門的な知識を身につけます。伝統ある外国語教育に加えて情報教育や環境教育など、学部の垣根を越えた学びには全学部を一つのキャンパスに集約しているメリットが生かされています。また、キャリア形成の観点からも教育に力を入れており、年間を通じたキャリアカウンセリングやガイダンスの他、初年次より将来を考えるための授業を用意しています。獨協大学の学びの環境は、地域における生涯教育の場としても活用されており、草加市と連携したオープンカレッジも開講されています。
 研究面では、「地域総合研究所」「環境共生研究所」「外国語教育研究所」「情報学研究所」を設置しており、それぞれの研究成果を広く発信して地域社会に貢献するとともに大学教育の場に還元しています。
 今日までの本学の取り組みの根底には、天野貞祐先生が唱えた建学理念「大学は学問を通じての人間形成の場である」があり、それは時を経てもまさに真理であり、これからも変わることはありません。これまでの伝統を受け継ぎ、それぞれの個性が生きる「グローバル社会」の扉を開く大学として力強い一歩を踏み出していきたいと考えます。

地域に生きるグローバルな視点

 グローバル人材の養成と並ぶ大学の使命のひとつに、COC(center of community)、つまり大学は地域社会の中心たりうるかという視点があげられます。グローバルな視点に立つには、まず身近な地域の人々や自然環境との共生を果たしていく必要があります。グローバルな視点に立ちつつ、ローカルに行動していくことが重要です。1964年に獨協大学が草加市に設立され、半世紀以上を経た2017年4月に大学の最寄り駅は「獨協大学前<草加松原>」と改称されました。地域と共に歴史を刻んでいく獨協大学において、教える者も学ぶ者も「社会の一員としての使命は何なのか」ということを考えていかなければならない時代です。

獨協大学コミュニティスクエア 獨協大学前<草加松原>駅の西側には、かつて「東洋一のマンモス団地」と呼ばれた「松原団地」があり、人々の暮らしの拠点となっていました。現在この地区は、多世代が交流する新たな街並みに生まれ変わっています。本学も大学の北側に隣接する「生活交流拠点ゾーン」として開発されたエリアに2023年に「獨協大学コミュニティスクエア」を竣工しました。地域と共に歩みを進め、本学はCOCとして文化的な貢献を果たしていきたいと考えています。
 また、COCの取り組みとして、私たちは獨協大学の前を流れている伝右川のきれいな水を再生するために、埼玉県と草加市、地域住民の皆さんとかかわり合いながら、長期的な視点に立った活動を行っています。

これからの50年-新たな価値の創出-

西棟 獨協大学は、2020年8月に「獨協大学人権宣言」を公表しました。その中では、建学の理念「大学は学問を通じての人間形成の場である」を実現するために、誰もが平等な教育研究の機会を与えられ、その人権が擁護され、人として成長できる場を創造することを宣言しています。天野貞祐先生の建学理念は、大学や学問の本質を常に私たちに問いかけ、獨協大学で教え、学ぶ者の原点として今日まで脈々と受け継がれているものなのです。
     この建学理念の具現化ともいえるキャンパス全域の再開発事業は、約10年を費やして一段落しました。このキャンパス再編の集大成「創立50周年記念館[西棟]」に見られるように、学内施設には学修効果の高い設備を取り入れるだけでなく、次世代のためのエコキャンパス推進を目指した環境共生技術を多数導入いたしました。
     今後は、安全・安心な学習環境の維持と多様なメディアの効果的な利用のための整備とあわせ、教育研究機関として、社会の発展に寄与する持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みを推進してまいります。
 獨協大学はこれからの50年を見据え、約140年に及ぶ獨協学園の歴史を継承し、私たちが育んできた「獨協教育精神」の伝統と革新をキーワードとして、学内の英知と資源を結集して新たな教育的・学問的価値の創出に努めてまいります。引き続き、獨協大学へのご理解とご支援を宜しくお願い致します。