2005 学生懸賞論文入賞作品(3編)

2005 学生懸賞論文入賞作品(3編)

入選

「近郊農業の抱える問題点と将来展望―旧沼南町と千葉県の農業を通して―」
経営学科4年 三浦 勇介 要旨はこちら

佳作

「はちみつの「効能」をめぐる時代的変遷と健康ブームについての一考察」
言語文化学科3年 中田いづみ 要旨はこちら

「北タイ山岳地帯における民族文化の演出」
言語文化学科3年 鈴木 春香 要旨はこちら

<入選>
「近郊農業の抱える問題点と将来展望―旧沼南町と千葉県の農業を通して―」
経営学科4年 三浦 勇介

旧沼南町や千葉県の農業は所得の減少、高齢化、後継者不足といった問題を抱えている。近郊農業を支援するために、有限会社の設立、生産緑地地区の指定、新規就農支援策など、組合や行政の取り組みもなされている。
近郊農業には「顔の見える生産者」として安全な食料を供給したり、住民に交流の場を提供したり、定年退職者の受け皿となることが期待されている。
このような近郊農業の役割に注目して、①体験農業を通じて消費者との信頼関係を築いていく、②直売所・産地直送の通信販売・スーパーとの提携などによる直接販売によって高い価格での販売を実現させ、かつ消費者に安心を提供する、③給食センターと提携して給食の食材として利用してもらう、といった提言をした。そのことが消費者との継続的な取引を実現して安定的な販売先を確保することにつながり、将来の農業経営者を育てることにもなるだろう。

<佳作>
「はちみつの「効能」をめぐる時代的変遷と健康ブームについての一考察」
言語文化学科3年 中田いづみ

雑誌、新聞に掲載されたはちみつに関する記事の中で、その宣伝文句、効能はどのように変化しただろうか。
1968年に業界新聞に掲載された記事に「はちみつが寝小便に効く」というものがある。また1990年代以降になると、はちみつが寝小便に効くといった内容の雑誌記事は見られず、はちみつとダイエット、美容を結びつけたものが増え、その効能、宣伝文句が変化してきているのがわかる。
これらのことから筆者は現代のいわゆる健康ブーム・はちみつは体に良いという価値観はマスメディアや売り手によって作られていると考える。作り上げられた健康ブームの波に乗るということは、消費者受けするように、都合のいい面を主に取り上げられた情報を消費者がただ受け取っているだけだ。消費者はただ情報を受け取るだけではなく、自分で考えるということをする必要があるのではないだろうか。

<佳作>
「北タイ山岳地帯における民族文化の演出」
言語文化学科3年 鈴木 春香

バリを旅行中、伝統舞踊をホテルのロビーで披露しているのを目にし、観光開発によって伝統文化や自然が、形を変え破壊されていく事に疑問を抱いた。タイ、チェンマイの観光地化されたモン族の村と観光地化されていないカレン族の村でフィールドワークを行ない、観光と文化の関係を考察していく。
モン族の村では、観光用に民族衣装を着たり民芸品を売っていた。観光客が帰るとTシャツ、ジーパンに着替える。しかしカレン族の村では、年代や性別によっても違うが、女性の多くは当たり前のように色鮮やかな民族衣装を着ていた。
実際に2つの村で暮らしてみると、どちらの文化も本物だと思えるようになった。文化とは固定的なものではないし、変化して当たり前なのだ。そして、観光地化された村でも、伝統文化が破壊されたと考えるのではなく、観光開発によって新しい文化、観光文化が創り出されたと考えるべきかもしれない。

審査委員長 講評
審査委員長 新井 孝重

 第33回学生懸賞論文のコンテストには、23編の論文が集まりました。応募論文をテーマ別にみると、<コトバと人間の生活>2編、<グローバリゼーションの時代>1編、<同姓婚を考える>2編、<滞日外国人児童と人権>2編、<日本プロ野球とナショナリズム>3編、そして<自由課題>が13編でした。
さて、今回入選した三浦勇介君(経営4年)の論文「近郊農業の抱える問題点と将来展望-旧沼南町と千葉県の農業-」(自由課題)は、今日の近郊農業衰退の様相をさまざまなデータを使って浮き彫りにしました。しかし、それでも近郊農業には、社会が必要とする固有の役割があると力説します。このため単純に衰退・消滅するのではなく、新しいビジネスチャンスを追求すれば、農業復活の条件は存在するというのです。真摯な問題意識とわかりやすい文章は、読むものを十分ひきつける力を持っています。
つぎに佳作の中田いづみさん(言語文化3年)「はちみつの『効能』をめぐる時代的変遷と健康ブームについての一考察」(自由課題)は、人が蜂蜜に対してもつ健康のイメージを、雑誌・マスメディアの扱いと関連づけ理解し、つくられた健康ブームの問題性をわかりやすく論じています。鈴木春香さん(言語文化3年)「北タイ山岳地帯における民族文化の演出」(自由課題)は、実際にタイの山岳地帯に入って、そこの人々の暮らしと外来者への対応を観察したものです。観光文化と伝統文化の概念を設定し、そこから組み立てた所論は興味深いものです。
獨協大学創設者(初代学長)の天野貞祐先生は、わが国がファシズムと戦争の時代にあったときでさえ、人間にとってのもっとも大切なものが理性である、と信じて疑いませんでした。そしてその理性は自由で伸びやかな教養によってのみ確保されると考えました。一人ひとりが理性を重んずる立派な人格をめざし、成長しようとするならば、まずは活発な知の探求と教養の蓄積が必要です。学生懸賞論文コンテストがそのような役割をもって、ますます発展することを、わたしたち教職員は願っています。

 

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