外国語教育研究所 第13回公開講演会を開催
2023年7月28日
外国語教育研究所(所長:浅岡千利世外国語学部英語学科教授)は、6月17日(土)に慶應義塾大学名誉教授・獨協大学外国語学部特任教授の境一三氏を招き、「日本に複言語主義は必要か?-ヨーロッパとの対比で-」というテーマで、第13回公開講演会を対面・オンラインのハイブリッド形式にて開催しました。
講演で境氏は、冒頭で「日本に複言語主義は必要か」という問いをたてました。日本とヨーロッパの言語状況の違いを踏まえたうえで、「複言語主義」というヨーロッパの概念は日本に有効なものなのかを検討するため、まずはヨーロッパにおける複言語・複文化主義の成り立ちと理念について、CoE(Council of Europe, 欧州評議会)の複言語主義の概念規定、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages, ヨーロッパ言語共通参照枠)の社会的背景や目的を提示して説明しました。ヨーロッパの多様な言語や文化は価値ある共通資源であり、ヨーロッパ人としてのアイデンティティを涵養し、ヨーロッパ人の移動、相互理解と協力を推進し、差別や偏見をなくすことはヨーロッパで使用されている現代語をよりよく知ることで可能になる、という理念がヨーロッパにおける複言語主義の根底にあることが示されました。また、境氏が現地調査で訪れたヨーロッパの南チロルとジュネーブの例を挙げ、「能力としての複言語主義」と「価値としての複言語主義」の違いを示したうえで、日本の目指すべき方向へと論を移しました。すでに日本は実質的な移民国家となりつつあり、多様性・寛容性を重視する「価値としての複言語主義」は日本社会において一定の意味を持ち、その「価値」を理解するためには一定の「能力」を身につけるための教育が必要となる、と論じました。
日本各地の研究者、教員、学生のほか、会社員など一般の方々を含め、学内会場での対面とZoomウェビナーでのオンラインで合わせて290名の参加がありました。質疑応答には多くの質問が寄せられ、充実した講演会となりました。(文責:三谷 裕美)