教員紹介

教員紹介

職名
教授
所属
法学部法律学科
最終学歴
School of Criminology, International Criminal Law and Psychology of Law (SCIP), University of Bern
学位
Master of advanced studies in Criminology (LL.M.)
学位を授与した機関
University of Bern, Switzerland
専門分野
刑事法・医事法・生命倫理
研究室No.
934
E-mail
-
電話番号
-

教員詳細

専門・研究テーマ

 私は,刑事法(犯罪と刑罰に関する法律)と医事法(医学研究・臨床医療に関する法律)が交錯する分野の研究(いわゆる「医事刑法」と呼ばれる学際的領域)に取り組んできました。
 より具体的に述べるならば,医事紛争に関連する判例を素材に,法的因果関係論(誰に問責するべきかを客観的に決定するための根拠論),被害者の同意により法益(法により守られるべき生活上の利益)が処分可能とされる条件は何かという問題,過失責任論といった理論的な問題の研究に加えて,更には,医療情報保護,生殖補助技術,臓器移植医療,終末期医療,先端医学研究の法的規制といった政策論的な応用問題にも取り組んでいます。

授業方針

 私が関心を向けている医事刑法・犯罪学のような学際的な分野は,隣接諸科学の成果を踏まえながら,多角的な視点により従来の伝統的な法の在り方(法の自律性)を再検証しようという試みでもあります。
 基礎的な法律学の成果を踏まえた上で,更に,それとは異なる学際的な視点も加えて,様々な問題の現実的な解決方法を学生の皆さんと一緒に探究していきたいと考えています。

自己紹介

 私見として,現代社会とは「専門家の影響力が失われていく時代」だと悲観的に考えています(世界的に有名な「裁判官兼学者」であるRichard PosnerはPublic Intellectualsという本の中で,いわゆる「知識人」と称される人達が市場原理で淘汰されずに堕落していく理由を痛烈に暴露しています。もちろん異論・反論あるかと思います)。また,いわゆる「専門家」個人の力と責任で問題が解決できる程,現代社会は,単純な構造をしていません(このような特徴をドイツの社会学者Ulrich Beckは「リスク社会(Risikogesellschaft)」という表現を用いて見事に表現しました)。その意味で『職業としての学問』においてMax Weberが描いたような厳しい現実に自分が耐えられるのか,苦悶苦闘している日々を送っています。
 ただ,私自身が「これは凄い」「これを知らなければ,かなり損しているのではないか」と感じたことを学生の皆さんに伝えていくことが可能ならば,何らかのかたちで,いずれは社会の役に立てる日も来るのではないかと考えています。
 そのような趣旨の語りだけが私に許されているのであれば,個人的にワインの話題は,かかせません。スイス留学中,スイスワインの奥深さに触れました。それを知ってしまった人間の責務として,ワインの素晴らしさを喧伝しないことは許されないだろうと(勝手に)感じています。
 しかし,残念ながら,スイスの独創的なワインを日本で口にすることは,非常に難しいのです。なぜなら,スイスワインは,国外に輸出されることを想定していないからです。そのほとんどは,スイス国内で消費されます。すなわち,スイスワインは,門外不出なのです。なので,皆さんも,スイスに行く機会があれば,ワインも一緒に楽しんできて欲しいのです。
 そのような貴重なワインを嗜むことができた経験もあってか,留学中に(それなりに忙しかったですけれども)暇があれば,気の合う友人と連れ立って,欧州各地におけるスイスを含め,フランス・ドイツ・イタリアを中心に有名なワインの名産地を訪問してきました。帰国後にワインへの興味が高じて,日本ソムリエ協会認定のワイン・エキスパートという資格も取得してしまいました。
 ちなみに,世界各国で「ワイン法」という立派な学問領域があります。ワインは,法律により厳格な品質管理の下に置かれているのです。その品質管理違反が犯罪とされる場合もあります。すなわち「ワイン刑法(Weinstrafrecht)!?」という分野も確立されていたりします。切が無いので,ワインに関する薀蓄は,このくらいにしておきます。
 ただ,最近は,ストレスによる食べ過ぎ・飲み過ぎのためか,体重が増加しすぎたので(最も痩せていた高校生の頃に比べて15kg以上,太りました),ワインを飲むことも密やかな楽しみとして,摂生するようにしています。

座右の銘・好きな言葉

「いのちの静けさは深い/死の沈黙よりも」
谷川俊太郎「からだ」の一部より(詩集『シャガールと木の葉』収録)

「無用の用」
荘子『荘子内篇・人間世篇』の逸話より

私の薦める一冊

古田裕清『翻訳語としての日本の法律用語』中央大学出版部(2004年)
 この本は,代表的な法律用語を(主にドイツ語からの)「翻訳語」として,その誕生過程を探ることで「どうして日本の法律用語は,こうも堅苦しいのか?」という素朴な疑問に関して様々な示唆を与えてくれます。この本の副題は,「原語の背景と欧州的人間観の探究」となっています。この本を通して,欧米の伝統的哲学と密接に結びついた人間観をも感じ取ることができれば,日本の法律に対する見方も大きく違ったものになるかと思います。

学生へのメッセージ

 上記「自己紹介」では,私の勝手なワインに対する想いが伝えきれていないので「学生へのメッセージ」として,続きを話したいと思います。
 話をワインに戻すと,スイスには,世界最高品質のワインを醸造する職人達が多くいることに気が付きます(ワイン法も,そういう職人達の気概と誇りによって支えられているのです)。しかし,ワイン醸造家にとって,スイスは,決して有利な土地柄ではありません。むしろ,不利な要素が多いのです。その場所は,山脈地帯で起伏に富み,気候も不安定です。葡萄栽培のために必要な日照量が確保できる程の平野が多いわけではありません。そのような場所にいながら,なぜ,スイスの醸造家達は,世界最高品質のワインを造り続けることができるのでしょうか?
 その答えは,スイスにおける醸造家達のワイン醸造に懸ける姿勢が物語っています。一流と呼ばれる職人達は,世界各国におけるワインの名産地を訪れて,その現場で働きながら,ワイン醸造に関する経験を蓄えてきます。すなわち,世界中を旅して現地を見て回ることで,何が「良いワインである」と評価されるのかを体得しているのです。すなわち,そのような者達により創造されるスイスワインは,スイス国内でしか出回らないにもかかわらず,世界最高水準という「普遍性」を見据えたものなのです。
 それだけではありません。スイス人は,スイス土着の葡萄品種を栽培することにも力を注いできました。例えば,その中にはCompleterという世界でも珍しい品種があります。これは,酸味が際立ちすぎて,過去には見向きもされなくなった葡萄でした。しかし,その特徴を上手に捉え直し,それをスイスの地元料理に合わせることで,現在,Completerは,見事な復活を遂げていると評価されています。実際,スイスは,他の国に存在しない固有の品種を多様に有しています。
 これは,特筆するべき事柄です。なぜなら,そのような品種には「希少性」という価値が付与されるからです。それは「未だ知られていない」というスイスらしい秘境の原風景がワインにおいて演出されることを意味します。そのようにスイス人は,ありふれた既存のものを新たに生まれ変わらせるという感性を有しているのです。
 現在の複雑なグローバル化時代にあって,どのようにローカルな特性・個性を発揮していくべきか。日本に生きる獨協大学の学生として,皆さんは「語学の獨協」という強みを活かしながら,この世界的・国際的な難問に立ち向かっていかなければいけません。その鍵となる答えは,どこにあるのか。個人的には,意外に身近なところにあるのではないかと思います。すなわち,日本という土地柄が織り成してきた長い伝統と歴史の中にあるのではないでしょうか。至高のスイスワインは,そのことを私達日本人に気付かせてくれるのです。
 密やかな楽しみとして,ワインを飲むときは,スイスを思い出すことがあります。黄金に輝く葡萄畑の中で慎ましく暮らす小さな村。スイスの天と地は,単に美しいだけではありません。そこにある厳しい自然と闘うために,スイスの人達は,実用的な知恵を育んできました。普遍性と希少性を同時に追い求めながら,そこで生き抜こうとする意志は,スイスの人達までをも美しく映えさせています。獨協大学で学ばれる皆さんにも,様々な経験を積み重ねることで,そういう「気付き」を体得して欲しいと願っています。