【オープンカレッジ】 特別講座「日本語再点検 ―ことばの不思議を考える―」を行いました

【オープンカレッジ】 特別講座「日本語再点検 ―ことばの不思議を考える―」を行いました


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21日(土)14001530、特別講座「日本語再点検 ―ことばの不思議を考える―」をオンライン配信により行いました。
 講師は、国際教養学部 梅津 正樹 講師が務め、内容は日ごろ使っていることば(敬語、表現)を点検してみる、というものです。
 とりわけ、時代とともに変化することばを探り、日常的に使うことばによって認識違いや行き違いはなぜ起こるのか、日本人の国民性とそれを育む風土、日本語の歴史にも触れ、具体的な事例を紹介しながら話が進められました。
 そして、今後の日本語はどうあるべきか、若者ことばや尊敬語、謙譲語、及び丁寧語に垣間見る意識の揺れについても触れる盛り沢山の内容でした。

 北は新潟、南は愛媛から全国150名の方が受講し、機器やWeb会議システムの操作は概ね良好だった様子です。最後にはチャットを使って質疑応答を行い、多数寄せられた質問に対して一つひとつ丁寧に答えていきました。時間内に答えられなかった質問に対する回答は後段をご参照ください。

 終了直後に行った受講者アンケートには「日本語再点検という意味で、今使っている言葉に興味を持てた」、「日本語は難しいと思っているが、なるほどと思えることが多かった」、「日常表現への意識、関心が高まった」という声があり、回答者の内93%*の方が満足しています。運営に関するご意見は、今後生かして参ります。

 なお、秋期講座は、現在受講申込受付中です。コチラから申し込めますので、どうぞご検討ください。皆様の申込みをお待ちしています。

*受講者アンケート回答者の内「満足」、及び「やや満足」と答えた人の割合

梅津講師講義中の梅津正樹講師

アンケート結果.jpg

時間内に答えられなかった質問と回答

[質問1]
目上の人に「**殿」というのは正しい使い方でしょうか。

[回答1]
「殿」は本来、高貴な人への尊称でしたが、現在は「様」が優先されます。
現在「様」は最も一般的な敬称として、地位の上下、男女の区別もなく、広く用いられています。一方「殿」は、私的な手紙においては、「様」より敬度が低いとされ、主として、男性が男性の同僚か目下の者にあてるときに用いられます。現在、公用文や団体・同じ組織の中で、上から下への伝達や事務的な連絡の場合などにも「殿」が使われていますが、徐々に「様」に切り替えられています。

[質問2]
郵便屋さんに「ご苦労様」ではなくて何と言って良いのか。いつも悩みます。

[回答2]
郵便屋さん・宅配業者の人などには、「ご苦労様」を使っても問題ありません。
「ご苦労様」は、基本的には、自分側のために仕事をしてくれた人などに対して、「ねぎらい」の気持ちを込めて用いる表現です。ただし「ねぎらい」は、上位者から下位者に向けたものとされています。目上の人には使わない方が良いでしょう。
もし「ご苦労様」では気になるのであれば、「ありがとうございます」「お世話様」などを添えると良いですね。

[質問3]
今のアナウンサー、NHKのアナウンサーも「ご覧になってください」とは言わず「見てください」とか「食べてください」、「召し上がってください」とは最近言いませんね。教育はしているのでしょうか。

[回答3]
きちんと教育しています。ご指摘の場面の状況が分かりませんので、判断しかねます。
放送では、(番組内容にもよりますが)過剰な敬語表現の多用には気を付けています。
「見てください」「食べてください」も正しい敬語表現です。
「ご覧ください」「召し上がってください」は、更に敬意の高い敬語表現です。敬語は、上下関係を表すのみならず、人間関係の距離を表すものでもあります。
いかなる場面でも、最上の敬語を"使っておけば無難"という 昨今の「敬語多用」の風潮は考えものですね。時には慇懃無礼な印象を与えます。また、敬語には「敬意低減の法則」と言われるものがあり、使うほど敬意の価値が下がってしまう側面もあります。

[質問4]
天地無用の意味と使い方を教えてください。

[回答4]
「上下を逆様(さかさま)にしては、いけない」という意味です。和製四字熟語です。
以前は、引っ越し用段ボール箱には、必ず書いてありました。しかし、理解できない人が増えたため、最近は「上下」或いは「↑↓」と箱に書かれることが多いようです。
「天地」は「上下」の意味です。では、「無用」とは何でしょうか? ➀役に立たない事。
➁ある行為を禁止・してはいけない事。➂用事がない事。 の三つの意味があります。
「天地無用」の「無用」は➁の意味なのです。 ➀の場合は「無用の長物」 ➂は「無用の者、立ち入り禁止」などがあります。 どの「無用」なのか判断することは難しいのです。

[質問5]
「全然~ある」や「役不足の誤った意味のとらえ方」など、最近、言葉の意味が以前と異なってきているように感じることがあります。先生も最近何か気になる若者言葉の使い方はありますか。

[回答5]
「全然」は江戸時代半ばに、近代中国語として日本に入ってきました。「すっかり・まったく・まるで」の和語に添えられた振り漢字として使われました。辞書にも「全く・ことごとく・あますところなく」などの意味も載っています。 これからも分かるように、江戸時代末期から明治時代は、否定にも肯定にも使われていました。大正時代に否定形が一般的になりました。理由は定かではありませんが、戦前から学校教育で「全然+否定」を指導するようになりました。 本来「全然~ある」は「全然OK」なのです。 「役不足」など慣用表現については、調査をすると、意味を誤解している人が多いのです。それは社会環境の変化・価値観の変化が影響していると思います。
「情けは人のためならず」などはその典型ですね。それは若者だけではありません。
現在、私が気になる言葉は「大丈夫」です。これも若者だけではなく、大人も頻繁に使うようになっています。 「レジ袋は大丈夫ですか」「お水の方は大丈夫ですか」「お下げしても大丈夫ですか」など、よく耳にしますね。

[質問6]
文字で表記すると、世論(せろん)・与論(よろん)ですが、最近のテレビのニュースで「よろん」を使う傾向があると感じるのは私だけでしょうか。

[回答6]
「輿論・よろん」は「世間一般の人の意見」
「世論・せろん・せいろん」は「世間一般の議論、風説、風評」
この二つの言葉には、意味の違いがあります。しかし、当用漢字表の公布により「輿」が使えないため「世」を代用するようになりました。そのため「世論」に「せろん・よろん」と二つの読み方が存在しています。「世論調査」はその意味から「よろん」と読んでいます。

[質問7]
「拝聴する」は「聴かせていただく」としてもよろしいのでしょうか。

[回答7]
どちらも正しい敬語です。どちらも正しい謙譲表現です。どちらもお使いください。
「拝聴」の方が「聴かせていただく」よりは、敬意は高いとされます。しかし、印象としては硬いですね。敬語は、一つの決まった言い方しかないのではありません。
敬語は、ワンパタンで使うのではなく、その場に相応しい様々な表現を工夫することが、豊かな人間関係に繋がるのではないでしょうか。

[質問8]
「日本」の読み方ですが、使い分けのルールのようなものはありますか。オリンピックもそうですが、現在スポーツでは「ニッポン」が多いように感じます。応援のとき「ニッポン」のほうが言いやすいからでしょうか・・・リズム的に。

[回答8]
「日本」の国名(読み方)は決まっていません。(法律をはじめ明確な規定はないのです)
音声言語よりも、書記言語を優先してきた日本らしいと思います。
「ニッポン・ニホン」どちらも存在し、定着しています。放送では、国名については「ニッポン」を優先しますが「ニホン」も使います。固有名詞の場合は、当事者の申告によります。NHKは「ニッポンほうそうきょうかい」。日銀は「ニッポンぎんこう」。日航は「ニホンこうくう」。日本橋(東京)は「ニホンばし」。
「日本」の文字の初出は、7世紀中ごろから8世紀初めにかけてのようです。
読み方については、奈良時代から「にっぽん・にほん」両方が存在したようです。
室町時代のキリシタンは「nitfon nippon」とつづっていました。
「ハ行の子音は古くはP音であった」という学説があります。また「日」は「ジツ・ニチ」ですから「ニッポン」の方が古いという説もあります。 どうやら「ニッポン」はスポーツとは、関係がなさそうですね。