獨協学園80周年記念式典式辞

「栄光の過去を土台に未来を見つめて──新大学の創設」天野貞祐 (昭和38年10月22日)

「栄光の過去を土台に未来を見つめて─新大学の創設」
天野貞祐 音声ファイル8分50秒(4.02MB)

本日ここに来賓の皆さんのご臨席を得まして、この獨協学園創立80周年の記念式を営むことを我々の大きな喜びと考えるものでございます。

学校というものも個人と同じようにやはり一つの生きたものだと私は思っております。生きたと申しても、自然的な、生物的な生き物というのではないのであって、倫理的、文化的な一つの生命体であると、オルガニズムであると、いうように考えられると思います。したがって、そういう生命体には盛んになることもあれば衰えることもあるし、場合によれば死ぬこともあるのです。学校といえども死ぬこともあるのです。私は、これは国家についても同じことであって、戦争前に私は国というものも死ぬことがあると。だから何でも死なないと思って勝手にやっていたらば、国は衰えるかもしれぬということを私は言いましたが、学校でもそうなんであります。

しかし、そういう意味で80年の歳月をいろいろな困難を凌いで、そして学校が生きてきたと。しかもますます盛んになっていくということは非常に喜ぶべきことだと思うんです。

例えば日独戦争とか、私立学校の経営難とかいうようないろいろな難しい間題を、この80年の間には凌いできたんです。ただ安楽にこの80年をやってきたわけじゃない。けれども、その80年がただ生きてきたというのでは値打ちがないんですけれども、しかし、本学園の教育が日本の文化に貢献したことは実に大きいと思うんです。ことに医学界においていろいろな卓越した学者を出したり、またいろいろなすぐれた業績を上げたりと。もしも獨協学園の卒業生がいなかったならば、日本の医学というものは今日の進歩は、私はできなかったと思うんです。そういう点においても、この80年というものが非常に尊い80年であったというばかりでなく、私はこの一般の日本の津々浦々に至るまで、獨協卒業の医師の方がおられて、そして親切な診療をしてられるということが国家にとってどんなに大きいプラスだかわからないと思うんです。華々しい色々な業績というものも尊いけれども、しかしそういう地味な、本当に人たちに親切にするお医者さんが獨協出身者というものが非常に多くて、日本のどこに行ってもそれが多いということです。要するに日本の医学というものは獨協の存在によって担われていたと言ってもよい。一時は東大医学部の教授は、その多くが獨協出身者だという時代もあったんです。

けれども、そういう我々の持っている輝かしい歴史、その伝統というものを我々がただ受けていくというんじゃない。これは個人の場合でも同じことであって、我々の生活というのは、ただ水が流れるとか、風が吹くとかというようなですね、そういう自然現象とは違っている。そういう自然的なものであるならば、我々の過去というものによってすべて支配されているんだけれども、そうじゃなくして、我々はいつでも未来に一つのアイデアを抱いて、そしてそのアイデアをここに実現しようということに努力している。だから、人間生活というのは、ただ過去をしょっているというだけじゃなくして、未来をそこにはらんでいて、未来と現在との衝突するところと言ってもいい、そこに自分らの現在の生活というものがあるから、個人の生活でも、ただ安楽というわけにはいかない。ただ安楽、酔生夢死というような生活は人間生活じゃなくして、我々がいつでも過去をしょって未来をそこに創造しようというところに人間生活があるんですが、学校でも同じことであって、我々が過去の輝かしい歴史というものをただしょっているというだけじゃだめであって、その輝かしい歴史というものを契機として、ここに新しい創造を営んでいこうと。したがって、学校の生活というものも決して安楽というわけにはいかない。我々の生活というものがただ安楽にいかないように、学校の生活というものもやはり安楽というわけにはいかない。そういう一つの伝統というようなものを自分たちが足場にして、そうして未来への理想を常に抱いて、そしてそれをここに実現してこようという、そこに学校も悩みを持ち、苦労を持つということは当然のことだと思うんです。我々は、この立派な歴史を持っているということを踏み台にして、そしてここに新しい一つの創造に向かって努力奮励しようというのが獨協学園の現在であります。

80周年を迎えたことは、ただ我々が過去を回想して、そして自分らの学園のいろいろな功績をたたえるということではなくして、それによって奮起して、さらに将来に向かって進もうという、そういうことがこの私は80周年記念式の意味だと考えております。それは、学校もそうであると同時に、学校の一員をなす我々みんなが、教員も職員も生徒もです、その他学校関係者みんなが、めいめいが、自分らの過去をしょって未来をここに実現しようという、そういう努力をすることによって、それがまた実現できると思うんです。私は、この80周年の記念式というものが、そういう一つの誓いになることを固く信じて、そして邁進しようと思っております。諸君もみんなもそういう未来の獨協学園を形成するんだという、そういう意気込みを持ってですね、これを機会に一層奮起してやっていきたいと思うんです。

我々の今目指しているところは、諸君がご承知のように大学の創設ということである。これは容易ならざる一つの事業でありますが、しかし我々はどこまでもそういう一つの目標に向かって努めて、そしてそれをここに立派に実現することに努めようと。80周年記念式典ということが、そういう我々を奮起させる一つの機会になるということを固く信じ、またそうあることを祈って、私の式辞といたします。

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